日本近海で見られるウミガメの中でも本州で卵を産む唯一の種類、アカウミガメ。遠州灘海岸は、アカウミガメの重要な産卵地です。
体重150kgを超える母ガメが、砂浜に上陸するのは5月中旬から8月下旬の夜のこと。砂の中に体を埋め、後足で地表から50~60cmの穴を掘ると、卵を120個程度産みます。
ピンポン玉ほどの大きさの卵は、表面が柔らかい殻なので、ぶつかりあっても割れません。1~3時間ほどで産卵が終わると、母ガメは穴を砂で覆って隠してから海へ帰っていきます。1頭の母ガメが1シーズンに産卵するのは3~5回。今年産卵した母ガメが、翌年に卵を産むことはありません。
卵は45~90日でふ化します。地表温度が下がるのを待つようにして、夕方以降の暗い時間帯に、子ガメは地上に這い出してきます。誕生したばかりの子ガメは、体長が6~7cmで体重約15g。無事にふ化するのは約70%です。 子ガメは地表に出るとすぐに、遠州灘に向かって一目散に歩きだします。海からの強い紫外線を感じて進み、太平洋の波に乗り、再び同じ浜に帰ってくるのは5,000頭に1頭。約20年後のことです。
このページの上へウミガメの産卵地である遠州灘海岸は、多くの海浜植物が育ち、渡り鳥が巣を作る場所でもあります。数年前まで、この海岸は多くの危険と、厳しい状況にさらされていました。オフロード車が砂浜を走ることで、ウミガメの卵が割れたり、海浜植物の根が寸断されて自生できなくなっていたのです。
捨てられたゴミで海岸汚染も進み、様々な要因で砂浜は狭く、海岸は痩(や)せていき、ウミガメが帰ってくる場所が減っていきます。海岸環境の悪化はウミガメの産卵数を減らすだけでなく、植物や渡り鳥にも悪影響を与えました。
砂浜が痩せることによる産卵場所の減少だけでなく海岸環境の変化は、ふ化したばかりの子ガメを苦しめます。オフロード車のワダチが、子ガメび進路をはばみ。また、夜中も明るい街のネオンが、子ガメの方向感覚を狂わせ、海とは逆の方向に歩むことがおこりました。
市民運動から始まった「サンクチュアリジャパン」がウミガメ繁殖調査や保護活動をスタートさせたのは1987年。多くの人の力が結集してウミガメの危険は減少し、年による増減はありますが、産卵回数は数年前よりも着実に増加しています。15年前には約130回だった産卵回数が、2010年は約290回、3万個ほどの卵が遠州灘海岸で確認されるまでになりました。
このページの上へ8月中旬になると、ふ化場に保護したウミガメの卵のふ化が始まります。子ガメは生まれたその日のうちに、街のネオンなどの影響をうけない昼間に海へ放流されます。一般参加者や子どもたちの手を借りた放流会も開催され、ウミガメの生態や環境問題の説明会も行われます。放流会に参加した子どもたちは、子ガメに触れ合うという貴重な体験を通して、自然環境の大切さを学んでいきます。
また砂浜への車両乗り入れ規制への働きかけは、卵や野鳥、野生の植物を守ります。
豊かな自然とすばらしい海岸を次世代に伝えるために、環境保護活動や自然体験活動が進められています。
10数年前、楽園グループの社員のひとりが、ウミガメ放流会に参加しました。太平洋へ旅立つ子ガメの姿に感動した彼は、会社に放流会や環境保護活動への企業参加を提案。サポート企業が少ない中で、楽園グループはその活動主旨に賛同。草の根的に活動をスタートさせました。以来、10年以上にわたり社会貢献活動の一環として、ウミガメ保護活動が継続的に行われています。
ウミガメ放流会も、10年前には応募者約300名、参加者150名ほどでしたが、昨年は応募者約4200名、参加者約550名。今年の9月18日に行われた11回目のウミガメ放流会には、4700名を超える応募があり、当日は約500名を超える参加者、という盛況ぶり。サンクチュアリのウミガメ放流会の中でも最大級の規模になりました。